2010年9月10日金曜日

詩 「化生する時間 濁声は仄暗く谺する」

ある初夏の
蒸し暑い夕暮れ時
腐った臭気が立ち込めるヘドロの川
に架かる冷たい橋の上
排ガスと騒音と人波に包まれ
遠い眼で黒い水面を見詰める
一人の男


                       (巨鯉が跳ねる)


真夜中すぎ
かつてのアパッチ族の根城
ビルの谷間の石畳の上
蒼白い街灯の光を浴びながら
植え込みに腰掛け 発泡酒片手に
金子狒狒爺(ヒヒジイ)の詩「蛾」を読む
その男


                       (野猫が欠伸する)


至福の時間も残り僅かの午前三時半
狒狒爺の詩集に落ちる視線に気付く
見上げれば 細長い禿頭(ハゲアタマ)の僧侶が一人
葡萄茶(エビチャ)色の払子(ホッス)を振り振り
ドスの利いた声で何やら経文を唱え始めた
浮游する透けた容姿から察するに
どうやら幽霊らしい


           (火取蛾(ヒトリガ)が赤い糞をする)


その男
気味が悪くなったので
詩集を閉じるが早いか一目散にそこを立ち去った
心臓バクバク 息せき切らしてふり返ると
街灯の光滴るその同じ場所で
僧侶は経文を唱え続け
払子はひとりでに黄色く宙を舞っている


                       (藪蚊が刺す)


その男
僧侶が自分など眼中にないことを知ると
額に滲む脂汗を拭い
コンビニのゴミ箱に空き缶をねじ込んだ
緑色した高層ビルの壁面に埋め込まれた
巨大な原子時計で仮眠時間の終りを確認すると
オフィスへと急ぐのだった


                       (亀虫が踏み潰される)


その時
鍬 鎌 鉈 竹槍 筵旗(ムシロバタ)
などを手にした百姓風の男女五六人に
国民服の少年一人と襤褸を纏った中年男一人
を交えた奇妙な一群が
脇をすれ違い通り過ぎていった
鈍色の余韻を残して


           (花水木がさやぐ)





◆倉橋健一責任編集『イリプス』第一次終刊号〔18号〕(2007年3月,アルバ社)に掲載。



9月になりました。夜は涼しくなりましたが、猛暑はまだまだ続きそうな気配ですね。これから地球が徐々に灼熱地獄と化すというのに、のんきに「エコだ」「依怙だ」と資本主義に踊る優等生がそこかしこに群がり出てくるのは鬱陶しいやら恐ろしいやら・・・。エコカー減税だとかエコカー購入補助金だとかいう話が聞こえてきたら、車を持たない人に奨励金でも出しやがれ、とささやくに限ります。

さて、最近は夏バテで気力まで衰えていたり、『紫陽』22号の編集作業やなんやらもありますが、ネットメディアの功罪というか底知れぬ罪について考えおののいていたらすっかりブログの更新が滞ってしまいました。
また時々更新しようかと思いつつ、かといって今この瞬間、ネタにできるほどの話は思いつかないので、以前書いた夏にまつわる詩を紹介することにします。

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