2010年12月20日月曜日

亰雜物「未だ現れぬ一九九九年九月の壺が○○な表情で映し出す反復する瀆神の午後に彷徨する龜によって綴られた断章」

虹と霓の構造式 と題されたノート


**** 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦・・・


高価な詩集を毎年自費出版し 大学受験感覚で片っ端から賞に応募しまくる無力症のプロレタリア詩人が 鮭茶漬けで満たされた丼の中をクロールする京の夏


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都市再生機構(旧住都公団)が「一部建て替えによる事業価値向上団地、再生事業対象団地」に指定した平城第一団地に響く抹香臭い沢庵和尚の説教


**** 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦・・・


帰路 チャペック『山椒魚戦争』を読みながら団地の中を歩いていると
一人の老婆がすれ違いざま冷やかしの言葉を浴びせてきた
「二宮金次郎かぇ?」


その言葉に不快な刺激を受けた俺は 一九一七年を記念するあの名高い便器と同型の全ての便器がこれまでに飲み込んだ尿の総量はどのくらいになるのかと 読書を中断して考えざるをえなかった


**** 下破 下破 下破 下破 下破 下破 下破 下破 下破・・・


額を機関銃で打ち抜かれる妄想に囚われる
                    己の分身に打ち抜かれる妄想
鉈で左手を斬り落とされる妄想に囚われる
                    己の左手に握られた鉈に斬り落とされる妄想
巨大な打出の小槌で頭を殴られる妄想に囚われる
                    己の影に殴られる妄想


妄想はここ数日 日常の様々な場面で何の脈絡もなく断続的に襲ってくるが その度に細部は微妙に変化している


**** 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦 愚懦・・・


携帯平野の地平にとどまる一匹の蟻
少し脇を石鹸箱人間の群が胞子を撒き散らしながら通り過ぎてゆく


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駅前再開発で更地にされた古い民家
花崗岩の苔むした古い石碑だけが敷地内に取り残される
その北向いの民家も更地に その隣も……


片田舎のとある駅前
小雨がパラつく駅前の畦径
人の背丈程もある深紅のキノコが異様な姿で屹立する
”きのこの山“が巨大化したような不気味さ


あまりに奇妙なので 岡本太郎の亡霊がそれを絵にした


雲が立ちこめる






大地からイサム・ノグチの笑い声が聞こえた       ような気がした


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時計の規則音に脈拍が同化して目醒める夕刻


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猫 
 シニフィアンとシニフィエの弔鐘を その存在によって祝福する動物


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分娩室におけるDr・太陽黒点への診断書 と題されたPDFファイル


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熱に魘されていると
舌が大山椒魚に化け
口いっぱいに拡がり
口が顔全体を覆い尽くす幻覚に襲われるという


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天丼屋何某という自称カブキ者の侍に左腕を斬り落とされる
「勘違いだ」と何度言っても奴は聞く耳を持っていなかった


大量出血                   意識が遠のいてゆく……


**** 下破 下破 下破 下破 下破 下破 下破 下破 下破・・・


80年代を知らない世代
あのふやけた不毛の時代を知らないということは希望でもある


貧乏人や暇人 そして龜や蝙蝠や猫たちが立ち上がる時 いつもその世代の人々が力を増幅する核となっていることがその希望に経験的な裏付けを与えてくれるだろう(二〇〇八年二月二三日 奈良)


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かつて築地署がガサ入れで押収したという ペンキの付着した松本哉の下駄が侍の頭を踏みしだく


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集団的箱庭療法の遺跡に残存する地上遺構としての小さな石橋
を凝視しているとセルロイドの眼鏡が顔からずり落ち
石橋の上で砕け散る


その上には誰のものとも知れない朽ち果てた古い眼鏡の残骸が無数に散らばっている
六年間愛用した眼鏡の破片をその中から拾い集めるのは至難の業かと途方に暮れたが
古い眼鏡の残骸群とは色艶に微かな差異があったので
さしたる苦労もなく全ての破片を回収できた
但し
雨蛙の家に闖入したレンズ(右側)の一部を除いては


腕利きの眼鏡職人に復原修理を依頼したが
職人は首を横に振った                 無言のままで


だが一九九三年に特集された某雑誌のグラビアで微笑む往年のシュルレアリストは
俺自身の手で復原修理が可能であると その小さな声で優しく励ましてくれた


誌面からは彼の燻らすechoの煙が洩れ出している








※『紫陽』15号(2008年5月)所収。






  

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