2018年6月4日月曜日

左川ちか「緑色の透視」

一枚のアカシヤの葉の透視
五月 其処で衣服を捨てる天使ら 緑に汚された脚 私を追ひかける微笑 思ひ出は白鳥の喉となり彼女の前で輝く

いま 真実はどこへ行つた

夜露でかたまつた鳥らの言葉 空の壁に印刷した樹らの絵
緑の風が静かに払ひ落す

歓楽は死のあちら 地球のあちらから叫んでゐる 例へば重くなつた太陽が青い空の方へ落ちてゆくのを見る


走れ! 私の心臓 

球になつて 彼女の傍へ
そしてテイカツプの中を

――かさなり合つた愛 それは私らを不幸にする 牛乳の皺がゆれ 私の夢は上昇する




(紀伊國屋書店版『L'ESPRIT NOUVEAU』第6号,1931年7月)

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