長谷川由貴さんは美しい絵を描く。
ところが、「美しい」という判断を経て心に落ち着く場所を確保するよりも先に、否応もなく湧き上がる感覚がある。それは、長谷川さんが描くことによって到達しようとする感覚、あるいは描くことを促した感覚にまつわるものであるのだろう。
モチーフとなっている、絶対的な他者としての植物の存在感、植物が漂わせる気、あるいは信仰の場、神聖な場に漂う神気、など〈おそれ〉を催すものは〈崇高〉なるものだ。また、画題として付された言葉と絵には適度な距離があり、言葉はさしずめ詩でもある。その〈あいだ〉には、鑑賞者のために用意されたと思えるなにかがある。
そんな長谷川さんの仕事はアカデミックな観点からすると、普通に具象絵画であり、植物画、風景画などと分類されるに違いない。一義的にはその通りで、それは間口の広さを根拠づけてもいる。しかし対象として植物や風景を描きつつも、心は超越的なものにしか向かっておらず、作家はここに確信をもっている。私はこのように超越性を志向する長谷川さんの仕事を、ある種の〈形而上絵画〉、とひとまずは位置づけることにしよう。
近作では色彩もさることながら、光と影の表象、そのコントラストに顕著な特徴があり、とりわけ影を表象する〈黒〉は強い重力を帯びている。〈黒〉に引きつけられるのは、私たちの無意識そのものが、文字通り無意識裡に呼応しているからであろう。光を吸収し、何ものにも染まらない〈黒〉は、深淵としての〈闇〉でもあるが、それは私たちの潜在意識の内奥にある〈暗がり〉と、ときにあえかに、ときにまぎれもなく、結ばれる。実存へと反照する強さ、の基底でもあろうか。
なにか超越的なものが作家の心身を通して描かせているのではないか、とも思っている。
京谷裕彰(詩人・批評家)
※会場配布テキスト
◆長谷川由貴 個展「Node of Light and Shadow」 2018.3.9~3.19
spectrum gallery(スペクトラム・ギャラリー)
開廊:金-月曜 13:30-19:30 / 日・祝・最終日 13:00-18:00
休廊:火・水・木
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