1284年聖ヨハネとパウロの記念日(6月26日)に、ドイツ・ザクセン地方の小さな街、ハーメルンの子どもたち130人が失踪するという事件があった。この事件は街の人々に大きなショックを与え、その後もトラウマを残しながら伝説化していった。それが、奇妙な衣装を身に纏った笛吹男に子どもたちが誘引され失踪したという著名な童話「ハーメルンの笛吹男」である。
現在、乙画廊(おとがろう)で開催中のこの展覧会は「ハーメルンの笛吹男」をテーマに、8人の作家が独自の解釈や変奏、あるいはそれぞれの精神世界との重なりを表現した作品を集めたものである。
長尾紘子さんの五枚綴りのペン画(写真は右側の3枚)。笛吹男ではなく“笛吹女”(写真左端の絵)に変奏されたストーリーが、五つの絵によって展開される。この絵が丸ペンで描画されたものであるとはにわかには信じられないくらいの細密さ。筆致を確認するにはルーペがなければ不可能だった。
石原朱麻さんのペン画「marjoram」。木枠に彫刻を施し、石膏粘土と樹脂で塑造した額も自作。その細部はおぞましいものや可愛いものなど様々なシンボルが稠密に配されている。絵と額、両方同時には意識を集中することができないため、別々に眺めた後で全体を見渡すと、この作品の異なる位相のそれぞれにおいて、ある種の対極主義が徹底されていることに気づく。
「少女のエロティックな黒いメルヘン」をモチーフに制作をする古川沙織さん、「初春燕返し」。鈴木創士さんの跋文が添えられた古川さんの画集『ピピ嬢の冒険』(2011,書苑新社)は会場で購入できる。特典はサイン、ポストカード、ミニアチュール。
ここで紹介したものはほんの一部である。個々の作品の魅力もさることながら、作家の選定や作品の配置など今回の企画は乙画廊オーナー・渡辺良隆さんのすぐれた編集センスが窺える。可能な方はぜひ足を運んでみてほしい。
★★★★★
出展作家:石原朱麻、岩澤慶典、こうぶんこうぞう、榮真菜、清水真理、長尾紘子、福長千紗、古川沙織
会期:2012.1.20(金)~1.28(土)
乙画廊
大阪市北区西天満2-8-1 大江ビルヂング101
この伝説に興味のある方は、阿部謹也『ハーメルンの笛吹き男 -伝説とその世界』(ちくま文庫)もぜひ。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。