2013年6月30日日曜日

河口重雄×岩名泰岳「郵便夫(ポストマン)と森の星」 於、アトリエ河口(三重・島ヶ原村)

市町村合併により消されてしまった村から、名もなき土人(つちびと)たちの文化を創造力で新しい美学へと変換していくことをめざす"島ヶ原村民芸術「蜜の木」"の第1回展覧会(2013.5.25・26)の記録。

郵便局員をしながら絵を描いていた村の画家・河口重雄さん(1943-2004)は独力でここにアトリエを建てたものの、完成直後に急逝。その後8年あまり放置されていたところ、留学先のドイツから帰国し、地元の村で制作することを決意した岩名泰岳さん(1987生)がこのアトリエを譲り受け、整備した。
















「蜜の木」スケッチ
                     岩名泰岳
01.
畑の火。花の匂い。
野原の魚はじっとしている。水のなかで生き返る。
地蜂が巣に返る頃、巣はもうどこにもない、みんな死んだ。
やがて君も死ぬ。草の底が笑っている。
黒い木の下に鳥と魚を埋めた夕暮れ、橙色の星だった。
春には墓から芽が吹いて、田も山から降りた水の鏡になった。

02.
知性と野生の車輪を、あの白い花びらのように廻してゆけるだろうか。
峠の地蔵のそばで紺色の山人は眠る。獣と月の声を聞きながら。
森と里の境界を往来する透明な旅人。
「遠いあなたは土や水の粒で、観音の森の木の蜜だった」

03.
私は消えてしまった村に帰って、その土を掘り続ける。
その掌は冷たい水脈に触れて、暗い水際に無限の星空を写し出した。


島ヶ原村民芸術「蜜の木」

21世紀10年代の今、グローバル資本主義は世界中のいたるところで、先祖代々継承されてきた文化、都市に住む人々が生み出し発展させてきた文化、ゆたかな自然、小さきもの、繊細なもの、あらゆるものを腐敗した権力とカネの暴力によって破壊し、荒れ地に変えている。
そして「経済=資本主義」という詐りのロジックで人々を洗脳し、友愛や文化を育む時間を奪い、他方では無為の時空へと捨て置いてゆく。
だがグローバル資本が押しつけ扇情する「成功イメージ」は、すでに明白な破綻を来していることに、多くの人々が気づき始めたのだ。
村で生きる岩名さんと若者たちが村ぐるみで進める村民芸術運動「蜜の木」とは、そんなグローバル資本主義に対する、もっともローカルな場所からの、そしてささやかであることへの信頼に貫かれた文化的抵抗である。
それは、伝統的なものへの敬意と因襲的なものからの桎梏、そして両極への引き裂かれなどあらゆる困難を引き受けながら、差異を力に変える触媒として、芸術を信頼するということを意味している。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。