2013年6月20日木曜日

吉本直子 「silent voices」 於、YOSHIAKI INOUE GALLERY (大阪・心斎橋) 

数多の表現者たちの創造物と鑑賞者とが出会い、対話し、通り過ぎ、記憶を残していった場所に佇む 「白の棺」。
下の写真は、集積の起点。始まりはここから。
個体の下意識にある感覚的ななにものかが、他者のそれと、やはり下意識で結びあうようにしてリゾーム状に集積してゆく。
単位となるブロックは、かつて作家や作家の友人知人、そして見知らぬ誰かが身にまとい、袖を通していたシャツやブラウスである。
圧縮され、積まれたそれぞれのブロックの一つ一つには、デザインの個性、あるいは染みや皺といった痕跡とともに、人々の生の営みの記憶が封じ込められている。

それらがかつて衣服であったことは、衣服に裁縫される前には布があり、布が織られる前には糸があり、そしてそういったすべてがここに内包されていることを無言のうちに語っている。
さらには糸に紡がれる前の繊維、その原料となった木綿や化学物質は、はるか大地の記憶へと遡るよすがにもなろう。
 上階に現れた「鼓動の庭」。
鼓動とは、打たれた楽器から身体へと届く音波の響き、心臓の律動、精神の震え。
庭とは、安全に囲われた場であるとともに、小さな、しかし無限へと開かれた世界の喩。
場をみたす空気の温度や湿度までもが震えているように感じるのは、気のせいではないだろう。

素材と物質、制作の技術や工程、形象や形態、展覧会と作品タイトルを構成する品詞、それらに誘起される鑑賞者の思考や行動にいたるすべてが、豊饒な象徴性を帯びている。

YOSHIAKI INOUE GALLERY 5/10~6/22

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