加世田悠佑"Escape me alone"。鋳鉄で造形された作家自身の似姿は、まるで"死に至る病"に蝕まれているかのように表情は重い。あるいは生ける屍のようにもみえる。だが、足取りは重くとも、確かに一歩を踏み出している。
そして体躯の右側から生えているのは枯れ枝ではない。枝の先端は鹿の袋角のようにまるく膨らみ、これがまさに芽吹かんとする生命の力を秘めた枝であることがみてとれる。
かけがえのない瞬間の記憶、その表徴として脳裏に焼き付けられた表情。それらにドライフラワーを添え、大切なものとして標本のように箱に収めた谷口朋栄「感情採集」。
一つ一つの箱には「世津無(せつない)」(下段右)、「夕打(ゆううつ)」(上段中央)、「糸思意(いとしい)」(下段左)といったタイトルが付されており、そこからは描かれた表情への、あるシニカルな眼差しをも感じさせる。
「糸思意」。箱を開くと、扉の蝶番と留め具にはたかる蟻が描かれている。
エロティックアートばかりが陳列された一角でひときわ異彩を放っていた、タニカワアユ「私のもの」。女性二人のまぐわいを描いた油彩画であるが、表面に塗布されたクリーム状の物体が生々しい。みての通り、これは幸せなまぐわいではない。自然な肌色をした「私」は恍惚とした表情で滴る白いものを口に入れようとするが、それは青白い肌をした女性への満たされない所有欲を暗示しているようだ。「私」の左手の小指はデフォルメされてはいるものの、男根を象っている。
絵の向こう側にあるストーリーを、物語る力に惹きつけられた。
凶悪なビジュアルの福山翔太「nikubenki」。ぶらさげられたコンドームの中の白い液体はどうやら本物ではなさそう。批評的にはノーコメントとさせていただくが、このようにギョッと思わせる作品と出会えるのはアンデパンダン展の醍醐味である。
1階がホワイトキューブ、2階がブラックキューブ、といったスペースの特性を活かした展示には、カオスの中にあっても鑑賞という行為を通じて別のコスモスの現前を手助けしてくれるような、優れた編集的センスが感じられた。
このアンデパンダン展には73名の作家が集っている。
このアンデパンダン展には73名の作家が集っている。
◆アートスペース亜蛮人(あばんど) 6/22-7/3
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