あれはとおいい処にあるのだけれど/おれは此処で待つてゐなくてはならない/此処は空気もかすかで蒼く
葱の根のやうに仄かに淡い/決して急いではならない/此処で十分待つてゐなければならない
処女(むすめ)の眼のやうに遙かを見遣つてはならない/たしかに此処で待つてゐればよい/それにしても
あれはとほいい彼方で夕陽にけぶつてゐた/号笛(フイトル)の音(ね)のやうに太くて繊弱だつた/けれどもその方へ駆け出してはならない
たしかに此処で待つてゐなければならない/さうすればそのうち喘ぎも平静に復し
たしかにあすこまでゆけるに違ひない/しかしあれは煙突の
煙のやうに/とほくとほく いつまでも茜の空にたなびいてゐた
◆「日常の片隅」展より。於、カフェ&ギャラリー凛(奈良・田原本) 2012.2.3-2.12
奈澄和さん独自の感覚で詩行は分節され、言の葉は下から上へと開かれていく・・・。
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