「Melt」(部分)
「零へ」
白昼の強い陽の光ではなく、また闇夜を耿耿と照らすネオンや街灯、ましてや「不審者」を感知し大光量で照らし出すセキュリティライトでもなく、闇の中で幽かに灯る仄かな光によってしか照らしえないものがある。
それは、われわれ人間の心の内奥にあって、己を支配していながらも、己の力だけでは蝕知すらしえず、決して全貌を現すことのない実存の闇である。
私は、この絵の中の人物を眼差すと同時に、眼差しを返されている。絵と向き合う限り、それは避けがたい。
その時、否応なしに己の内面の闇に思いを向けることを要請されるのだ。顔によって。目の光によって。
酒井龍一さんは、日本画の伝統的な技法を用いて幽玄の美を表象する画家であるが、そこに実存思想的な要素が顕著にみられることに酒井さんの本領があるように思えた。
それは、絵画の可視性を媒介に、存在の深みへと見る者の意識を誘い、不可視なるものの覚知を後押しする、その力にこそある。
幽玄の美と実存の闇、それらが交わり、しりぞけ合う、その“あわい”に酒井さんの絵はあるのだろう。
「消えてなくなるその前に」(部分)
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