さまざまな果実の断面を描き続ける北中美佳さんの新作は苺。
それぞれに異なる品種の苺を、ある程度の写実性をもって描写した作品群である。
画題として選ばれたものが苺であるということ、その果肉、半截された断面の細部、その形象、種子、鮮やかな色、といった平面上の表徴は想像力をうるおいゆたかに刺激し、そこからまた、唇、女性器、眼、心臓、など人体の諸器官をも連想させる。こういった視覚イメージのメタモルフォーゼは、鑑賞の大きな愉しみである。
北中さんは、果実の断面を描くことを通じて、ものごとの内面を描いているのだろう。
とりわけ、種子が白く、大きく、のっぺりと描かれていることは、その方法とは逆説的に異彩を放っているようだ。
植物の原基としての種子が、そのまま生命力の根源を象徴するものとして。素朴に。
このような種子の存在感は、柿やリンゴなど北中さんがこれまでに発表した作品にも通底する要素であり、そこにある差異と反復こそが作品の強度を担保しているように思える。
だがそれは、感官を作品に晒す時間のなかで、ようやく理解できることでしかない。
そこに価値を見いだせる人には、しあわせな時間が訪れることだろう。
作品たちは控えめに、それでいてつよく、人と人との間に流れるアウラを、みずみずしいものに変えてくれる。
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スペクトラムギャラリー 5/24-6/5
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