うんこは汚らしい。においをかぐと、むっとした嫌悪感が走る。人類がさきかうんこがさきか、という話であれば、人類がしたうんこは人類がさきかもしれないが、人類の嗅覚にひきおこす嫌悪感とうんことのどちらがさきであったかというはなしになれば、まちがいなくうんこのほうがさきである。人類はこうして、腐敗したもの、危険なもの、不用なものを避けることができるように、何十万年かけて感覚を造成してきた。だから嫌悪感はタブーの端緒になっている。うんこのようなはげしいタブーは神聖視され、精霊のように昔話のなかで活躍したりしている。タブーは欲望にも転化する不思議なエネルギーだ。
(藤井貞和『言葉の起源』序章。1985年,書肆山田)
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