2012年9月8日土曜日

ガストン・バシュラール『空と夢』(宇佐見英治訳)より

『プロメテーウス』(第二幕、第一場)においては、次のような偉大な楽弓の音(ね)が諸天に響きわたる。

ききたまえ。精霊たちが語っている。彼らの大気の下から
液状の答えがなおも鳴り響いている。

Hark! Spirits speak. The liquid responses
Of their tongues yet sound.

地上のものにとっては、地を離れるとともに一切が散り一切が失われてゆくのに、空に住むものにとっては、昇るとともに一切が集まり一切が豊かになる。シェリーは照応correspondanceを実感しているようにわれわれには思われる。それをボードレールの照応と比較してみると非常に示唆に富む。
ボードレールの照応は物質的実体の深奥の一致からうまれるものである。それは多くの点でランボーの錬金術よりも統一的な、感覚のもっとも偉大な化学を実現する。ボードレールの照応は物質的想像力の強力な中心である。この中心にあらゆる想像的物質、あらゆる《詩的要素》が会してその富を交換しあい、相互に他のものによって隠喩を養いあう。
シェリーの照応は幽霊のような軽さをもった力動的想像力の共時態(サンクロニー)である。ボードレールの照応が物質的想像力の王国であるとすれば、シェリーの照応は力動的想像力の王国である。シェリーの形而上詩学においては、資質のすぐれたものが互いに他を軽減することによって相集まる。それは一緒になっておのれを昇華する。それは果てしない進歩のなかで互いに手を貸しながら互いを昇華する。


◆バシュラール『空と夢』(宇佐見英治訳,法政大学出版局)70~71頁。

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