大判のタブローは夜景を描いたシリーズ「night wandering」の中の一枚。
夜に佇む二人の人影を思わせる構図であるが、元となった風景にあったのは何かの建造物であろうか。
その幅のある「輪郭線」に目を近づけると、風景の中にぽっかりと開いた隙間から、遠い世界を眺めるような、別の風景が現れる。そこで感じられる世界の遠さとは、空間的な距離感(つまり遠近感)によるものなのか、時間的な距離感によるものなのか、判然としない。この隙間は、時空の切れ目のようであり、そこから広がっているのは異なる次元の風景であるような・・・。
構図の中に、すでにして絵画的秩序のズレや乱れが盛り込まれているのだが、それと相俟って・・・なのか、その効果ゆえに・・・なのか、時間や記憶の整序が解体されていく。なのにそれは心地良い。奇妙なまでに。
2階では、イメージを集積することでタブローを制作する麦さんが、その素材として描きためたクレパスによる粗描が多数展示されている。
風景の奥行き、動き、イメージの重なり、など一枚の絵画を構成する秩序の複数性と画材や技法との関係、といった麦さんの絵の魅力、その秘密に迫ることができる展示となっている。
私のお気に入りは、月夜の風景を描いたと思しきこの一枚(シリーズ「night wndering」)。
◆サクラアートミュージアム 6/26-7/15