2010年9月18日土曜日

科野和子「記憶のカタチ」展

ふらりと立ち寄ったギャラリーで、素晴らしい絵と出会いました。
科野和子(しなのかずこ)さんの個展「記憶のカタチ」で出会った銅版画とドローイングによる作品群です。

科野さんは植物や昆虫、魚など、生物を構成する小さな要素を仔細に観察する営みの中から日々生成するイメージを、日記のようにハガキサイズの紙にデッサンしていきます。会場ではアーティストファイルと併せて綴られたデッサンをストックしたファイルも並べられており、壁面に展示された多色刷りの銅版画やドローイングは、それら日々のイメージの集積として練り上げられたものであることがすぐに見て取れました。

高度で独創的な版画技法を駆使したそのマチエールにまずは瞠目させられるのですが、決して技法が先行しているわけではありません。幾層にも刷り重ねられた繊細な線の一つひとつは奥行きを演出し、それはまるで人間の意識や環境世界に時々刻々蓄積されていく記憶の地層を思わせます。そして絵に添えられた一行の詞書きが、ただ絵を絵として掲示するだけでは展開されがたい詩的想像力を、言葉とイメージとの戯れを通じてより高い次元へと飛翔させることを助けてくれるのです。
自身をとりまく極小な、しかし潜在意識の内奥にある自然なるものと交感し合う事物を自らに取り込むことで世界と対峙する、その実存的な姿勢と技法との見事なまでの一致がここにはあります。あるいは技法にとどまらない、作家としての生活作法の一つひとつが意味のあるかたちで作品へとつながっているのかもしれません。いずれにせよ、日々の制作の中で哲学的な思索を伴うことなしにはこのような効果は得られるものではありえず、作品群が発する圧倒的な美的強度は、そのようなあり方によって基礎付けられているのだと思いました。
科野さんは微細な事物の一つ一つが人間や世界を構成しているのだということを、本当に感性の深いレベルで理解なさっている方なのでしょう。

ライプニッツのモナドロジーという概念を思い起こしました。




立体ギャラリー射手座にて9/19まで
http://www.galleryiteza.org/frame1.html

科野和子さんのHP「銅版画 -魚の足跡-」
http://sakanano-ashiato.com/



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