2010年9月24日金曜日

マフムード・ダルウィーシュの長篇詩「壁に描く」の一節(2)

わたしとはわたしであるもの、それ以外ではない。
この夜の民のひとり。
丘の陰に泉を見つけるために、
馬の背に乗って 上へ上へと昇る夢を見る。
しっかり立ち向かえ、おお わが馬よ!
この風に包まれ、われらはふたたび一つとなる。
お前はわが若さ。わたしはお前の影。
アリフのように起立し、稲妻となれ。
欲望の蹄に引っかけられ、木霊の木目をすり潰せ。
登れ。再生せよ。「わたし」のように直立せよ。
躯を張りつめよ、わが馬よ。「わたし」のように直立せよ。
アルファベットにある見捨てられた旗のようにこの最後の坂で躓かないように。
この風に包まれ、われらはふたたび一つとなる。お前はわたしのアリバイ。
わたしはお前の隠喩、運命のように径を外れて。
突進せよ、わが馬よ、わが時間をわが場所へと刻み込むのだ。
場所とは径のこと、風を履くお前なくして他に径はない。
星々を蜃気楼のなかで光り輝かせろ!
雲の不在にあって光と火花を散らせ!
わが兄弟となれ! 稲妻の案内人となれ、おお わが馬よ!
この最後の坂で死ぬな! わたしの目の前に、いや、わたしの後ろに、わたしとともに。
救急車を逃すな、死者から目を逸らすな。もしかすると、わたしはまだこうして生きている。


◆マフムード・ダルウィーシュ『壁に描く』(四方田犬彦訳,2006年,書誌山田)123~125頁。

0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。