《Sealed House 8》
《Sealed House 6》
西川さんの新しい油彩画のシリーズ《under construction or destruction》は、以前から知られる作風とは大きく変化した。
とてもシンプルに、「建築を覆うシート(養生幕)に興味をもった」のだという。
建設中なのか、解体中なのか、いずれかは判然としないが、いずれにもせよ幕の向こう側には建物の一部が垣間見えており、この幕がある種の境界として表象されていることは疑いがない。
また、幕で覆われた建物には奈良の著名な建物が含まれているのではないか、そんな直感が働くが、固有名詞との関係は示唆されない。あくまでも匿名である。
ステイトメントには、以下のように記されている。
「小さな魚の巨大な群れが水中を移動する時、実際には小さな魚の個別の意志の集合体であるはずが、流動する群れ自体が一つの意志を持っているかのように動いている。その絶えず変容していく様態はいつまで見ていても飽きることがない。」
これを読むと、足場の骨組みにcell状に張られた幕が風にはためく様子が、まるで小さな魚の群れのように見えてくる。
作家を想像へと誘い、創作意欲を喚起するものとしての、幕のある風景。
そうして、制作された画面の上で強力な存在感を放つ幕が、作家の精神と環境との"間"を象徴するものとして私たちの前に現前する。
そう考えると、高精細に写実された風景画の上に帯状に落とした絵の具でノイズを表した、以前のシリーズとの連続性を見いだすことも可能だ。筆致においても、新シリーズで描かれる幕と旧シリーズにおけるノイズとの間に近縁性が窺える。
《Kamizono》2012(新宿御苑がモチーフ)
ここでは、美しいスペクタクルな風景(それも人口に膾炙したモニュメンタルな名所)の中で、突如として降り注ぐ違和が描かれていたのだが、このノイズもまた作家の精神と環境とを隔てる結界のようなものとしてあった。
そしてそれらはとりもなおさず、鑑賞する私の精神と絵画の深淵とを隔てるものの象徴へと転位する。
違和の前景化、幕のシンボリズム、組まれた固い足場と柔らかい幕、そして結界・・・。
◆西川茂 展「under construction or destruction」 Gallery OUT of PLACE 奈良 2016.5.20〜6.19
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