2010年11月7日日曜日

萬谷和那「spirit」 (木津川アート2010 於、八木邸)

スコットランドに伝わる死を知らせに来る精霊にインスパイアされたという作品。

二つの蔵の狭い隙間で自らの心の中に立つことを、作家は促します。赤い線が見えるというのですが、どこにその線があるのかすぐには分からず戸惑ってしまいました。でも、その戸惑い自体にも意味がありそう。


隙間の奥の土壁には模様を形作った圧痕がありますが、これはこの建物由来の意匠。


視線を上にやるとこんな感じで、二つの蔵の高さは微妙に違っています。迫り合った切り妻の軒の隙間からは淡い光が線のように差し込んでいます。

振り返ると向かいの建物の壁に一本の赤い線が見えました。この一本の線が萬谷さんの設えたインスタレーション。

壁板の隙間に赤い粘土が埋め込まれ、一本の線が形成されていますが、左側に茶色い雨樋が寄り添っているのも意味深です。

萬谷さんは制作のモチーフとして常に個と社会との関係を考えている作家ですが、今回のインスタレーション「spirit」は、バランスの悪い二つの建物の隙間に立って隙間を埋めるという意味があるそうで、この展示場所の選定、建物の隙間に立つこと、など全てひっくるめて一つの作品行為になっているようです。古い庄屋建築である八木邸という場が放つアウラを、その違和をも含めて感受し、ここしかないという場所に作品を定位したその見事さに唸らされました。

そして、テーマは
「そうではなかったはずの現在」で、自分自身を心の暗闇に誘い込む内なる囁き。

そこにたつと空気の佇まいが外とは違うことにすぐ気づく場所で、深い内省へと誘われた精神に、赤い一本の線がまるで超越者からの暗号のように訪れます。



僕はこのようなコンセプチャルな作品に出会うと感度が一気に昂進するようです。









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