伝統工芸としての染色において、にじみはタブーとされるのが一般的だそうだが、加賀城さんは〈にじみ〉の美に高い価値を認めているように見受けられるのは、加賀城ファンの多くはすでに気付いていることだろう。
なるほど、色調や階調には明確な境界線というものはない。何かを明確に画する認知というものは、どこかで理性的な思惟によって了解しているにすぎないとも言える。何事も、視覚的にであれ、他の感官によるものであれ、時間のなかでつねに移ろいゆくものであるにもかかわらず。
そのことに気付かせてくれる、得がたい体験である。
だから、部屋に射す光、反射した光、照明の光、布に当たる、あるいは布を透過する様々な光と加賀城作品とは親和的な関係を結んでいるように思う。
色彩のにじみが光の中で醸すものへの信頼は、何かを確固としたものとする秩序や、それとは別の秩序との間を、情緒的に溶融させる優しい実践ではないだろうか。
溶融を象徴するものが他ならぬ〈にじみ〉であることを、わざわざ言葉にすることが野暮なほどに。
平面性と空間性をめぐる新しい試みが随所にみられる今回の個展では、新しい世代における抽象芸術の、ひとつのあり方を窺うことができるだろう。
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