2010年6月18日金曜日

デイヴィッド・ウィナー『オレンジの呪縛 ~オランダ代表はなぜ勝てないか?』(講談社)


サッカー界に革命を起こしたヨハン・クライフが登場した1960年代のアムステルダムでは、同時にプロヴォと呼ばれるアナキズム革命が進行していました。著者は当時の様子をこう記します。
「アムステルダム市内では、文化革命の嵐が吹き荒れていた。西洋の国々では、比較的裕福で独立心の強い戦後ベビーブーム世代の若者が、文化的、道徳的、政治的な変化を求める空気を作り出していたが、アムステルダムの革命ほど遊び心にあふれた、シュルレアリスティックで、アナーキーで、ドラマティックなものはなかった。」と。
本書の冒頭ではクライフのエピソードとプロヴォのエピソードが交互に叙述されるのですが、そのプロヴォのリーダーだったロエル・ファン・デュインが、
われわれは、オランダに革命が起きることよりも、太陽が西から昇ることを願っている・・・・、今すぐに反乱者以上の存在になることはできない。反抗者はケチなブルジョアの花崗岩の壁に自分の頭を強く打ちつけることはできる。われわれにとって意味があるのは挑発行為だけだ。」というようにプロヴォの目的はブルジョア階級を挑発して楽しむことだったようです。
そして道路でユニークなパフォーマンスの集会などを繰り広げるプロヴォを弾圧する警察は、プロヴォにとっても都合がよかったといいます。ばかげたことを弾圧する様子がテレビで報道されることで、かえって警察の立場が弱くなり、ついには警察が時代の風潮に逆らわなくなったのだと。これがオランダの警察がヨーロッパでもっとも寛大になった起源譚として語られるのですが、このあたりは松本哉と素人の乱に通じるところがあって面白いですね。

著者自身はクライフによるトータルフットボールの誕生とプロヴォが直接関係していたという立場はとっていませんが、時代の空気や、文化的な風潮など間接的な関連性は示唆されています。

さて、その他にも本書はスリナム系(黒人)住民と白人との間の人種対立など、歴史、地理、文化、芸術、宗教、心理などあらゆる角度から問題を掘り下げることで、なぜ高度なテクニックと洗練された戦術・システムを兼ね備えた理論上の最強チームであるオランダ代表が、毎度内部崩壊を繰り返してタイトルを逃し続けるのか、という謎を解き明かしていきます。
オレンジフットボールの社会学、とでもいうべき分厚い内容ですが、気軽に読めるノンフィクション仕立てなのが嬉しい。
先日紹介したトニー・フリエロスの『フランク・ライカールト』(東邦出版)と併せてどうぞ。





プロヴォについては、Richard Kempton, "PROVO : Amsterdam's Anarchist Revolt",AUTONOMEDIA,2007 という本があります。




2 件のコメント:

  1. テーム・カシーのブログに面白い記事があったぞなもし。
    http://team-kathy.blogspot.com/2010/06/blog-post_26.html

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  2. おー、情報ありがとう!

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