2010年5月25日火曜日

J・L・ボルヘス「月」

月、或いは《月》ということばは
一個の文字なのだ。多にして一なる
わたしたちという、この不可思議なものの
複雑な書記のために造られた文字なのだ。

宿命もしくは偶然が人間に与えた
象徴の一つなのだ。いつの日か、
至福に心おどるとき、或いは苦しみもだえるとき、
彼の真実の名前を書き留めうるように。


J・L・ボルヘス「月」(『創造者』所収・鼓直訳・2009・岩波文庫)より

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