『サッカーとイタリア人』の話を書いたので、それに関連する本のことを少し。
本書『「クオーレ」の』時代は1993年に出版されたものですが、『サッカーとイタリア人』を読んだり、ネグリらイタリア現代思想の著作などを読んでいて感じる特殊イタリア的な精神(としかいいようのないもの)について考える上で、基本的な理解の前提を与えてくれるとてもいい概説書です。
『クオーレ』とは1886年にデ・アミーチスの著した児童文学のベストセラーで、『母をたずねて三千里』などその中のエピソードは日本でもこれまで何度かアニメの題材にされてきました。
長らく統一国家が存在せず、遅れて近代化の流れに乗った19世紀のイタリアは、国民国家形成のための新しい価値観の創出ということが至上命題としてありました。それは国を統合する愛国心、自己犠牲の精神、勇気、思いやりといったものでしたが、そのような価値感を称揚する上で、個の尊厳というものが当然のように犠牲にされてきたのでした。
本書はそのようなイタリア近代史の流れを、国家にとって従順な身体を育成する軍隊の予備校としての小学校、そこでの教科書、イタリア語の形成、「健全な精神は健全な身体に宿る」という体育思想、捨て子の問題、人身売買、煙突掃除や鉱山での児童労働、など子供にまつわる様々な問題を軸に叙述していきます。
想像すればするほどその悲惨さにうちひしがれそうになりますが、それだけにこういった歴史的な事実を知っておかねばならないとの思いを新たにします。
それにしても、90年代前半に出版された西洋史分野の概説書には良質なものが多いなあ、と慨嘆せずにはいられません。
◆藤沢房俊『「クオーレ」の時代 ~近代イタリアの子供と国家』(1993年,筑摩書房)。初版はちくまライブラリー版、1998年にはちくま学芸文庫に入っています。今はどちらの版も新本では入手できませんが、今のところ古書在庫は十分にあるようなので興味のある人はお早めに。
◆エドモンド・デ・アミーチス『クオーレ』(和田忠彦訳,2007年,平凡社ライブラリー)
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