2011年10月7日金曜日

「NARA映像コテンパンダン展2011 in ならまち」 於、奈良市旧市街各所

最近、いろいろなアートイベントやギャラリーを多数回ったにも拘わらず、振り返る余裕がなかったのでここらで少しだけ書き留めておこう。


NAP(奈良アートプロム)実行委によって9月17日(土)~19日(月・祝)のたった三日間だけ奈良市旧市街の各所で繰り広げられた「NARA映像コテンパンダン展2011 in ならまち」は期待を裏切らない充実したイベントだったようだ。コテンパンダンとは「個展」「アンデパンダン」「こてんぱん」をかけた、言わばNAPの代名詞ともいえる同時多発展覧会で、今回は映像作品に特化したものだった。
僕は日程のかぶる東京ポエケットに出展していたので、ラストの1時間、それもカイナラタクシー綿町ビル(NAP2010のメイン会場!)一箇所しか観ることができなかったのだが、それでも素晴らしい時間を過ごすことができた。


ビルの入り口を入ったすぐのところにある、やまもとひさよさんのセルフポートレイト映像「La vie en Rose」にまずは惹きつけられた。この写真では判らないが、金髪のカツラをかぶったひさよさんが泡風呂でエディット・ピアフのシャンソン「La vie en Rose」を高らかに、しかし調子っぱずれに唄っている姿に圧倒された。バストトップが一瞬チラリと見えたかみえないかくらいのサービスまであった。ガイドマップのキャプションにも「自身の抱える種々のコンプレックスを吐露し・・・」とあるように、自らの姿を戯画化することで人を引きつけつつ、それを鑑賞者の実存にも反照させようとする手法であるように思えた。だが、この手のセルフポートレイトにありがちな自虐的な演出は排除されている。そこがまたいい。
湿っぽさと潔さとが共存した映像に思わず喝采し、二周半も画面にかじりつくことになった。



2Fには大橋勝さんの「Video Painting」。3面のスクリーンに抽象・具象をループしながら変成し続ける映像を絵画的イメージに仕上げた作品。


3Fでは土屋貴史さんの3作品が上映されていたが、即興音楽集団SJQの演奏を背後で流しながら一つ一つの音の要素をアニメーションで視覚化した作品は視覚イメージとして純粋に面白かった。
だがしかし、SJQの音声がでかすぎて別のフロアにまで響いてしまうのはいただけない。もう少し音量を下げても作品の鑑賞にはなんらマイナスにはならなかったはずである。
以前からよく思うことなのだが、音楽ライブやDJ好きの人には音というものが人間の聴覚に及ぼす繊細な影響について、それこそ繊細な配慮が欠けている人が少なくない。どうにかならんもんか・・・。
同じ3Fの壁にはNAP2010の時の藤川奈苗さんが残したスクラッチング。とてもいい味をだしていた。やはり懐かしい。


今回、カイナラビルでもっとも印象的だったのが、マダガスカルの盲目のダンサー、ナセールのインタビューとパフォーマンスを記録した大歳芽里さんの作品「I see you」だった。ナセールのソウルに感応し、ダンスなどできないはずの己の魂が抜け出て今にもナセールと一緒に踊りだしそうな幻覚に見舞われた。ナセールの動き、リズム、パッションなどその身体感覚が小林三悠さんにそっくりだったことにも驚いたが、ちょうど画面を見入って二周目に入ったあたりで大歳芽里さんご本人と対面できたことは大きな歓びだった。

「I see you」展示風景の写真がないのは、あまりにも感動してカメラのことなど吹っ飛んでしまったからである。




時間があまりなかったので、平川祐樹「ささやきの奥に」、森村誠「冤罪」など、その詩情に惹きつけられながらもじっくりと映像を味わうことができなかった作品があるのは残念の極みである。もう一日二日だけでも会期が長ければよかったのに・・・。
映像コテンパンダン展には大きなポテンシャルがあると思うので、今後も継続してくれたらなあと思う。



↓こちらは小吹隆文さんのレビュー

1 件のコメント:

  1. それにしてもカイナラタクシー綿町ビルには独特の空気が滞留している。このビルに恋する人の気持ちが分かる気がする。

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